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「二人」の始め方ー『すきなひと』

「当分恋愛とかはできそうにない感じ」

男女問わず、そんな気分になる時はある。

 

こっぴどい失恋をした時。

仕事が楽しくて仕方ない時。

その他プライベートが大変で手が回らない時。

 

能動的な理由であるほうが少ない、という気がするのが、個人的な感覚だ。

恋愛感情自体、「感情」である以上、意識して止めるのは苦しい。

受動的な理由でなければ、とてもそんな決心は長続きしないだろう。

 

主人公・城田は、学生時代からの友人である鏡子への想いをズルズルと引き摺っている。

鏡子は卒業後半年後に結婚したが、その後離婚して城田の近所に引っ越してきた。

(彼女は学生時代から浮気に気づきにくいらしく、離婚理由も同様である)

『「好き」や「愛してる」の対象は、恋人や恋愛相手だけじゃない』

そんな気持ちで、彼女と関わりながら支えようと考える城田に、冒頭のセリフを述べる鏡子。

それでいいんじゃないか、と肯定する城田に対し、「あなたとなら、したいって思う」と鏡子はつぶやく。

ここから、「セックスしてます(しかも会うたびほぼ毎回)が、つきあってません」という、何とも説明しがたい関係が始まる。

 

彼女の妹からの後押しもあり、関係を一歩進める一言を伝える城田に対し、鏡子は拒絶の意を示す。

お互いに詰将棋のように図っていた距離感が壊れ、互いに抱いていた誤解や、自身の感情への不信感が吐露される。

 

『友達の「好き」、恋愛の「好き」』

『いろんな「好き」がある』

『それらは既にここにあって、混ざり合う」

 

離婚を経て、恋愛の「好き」を結べる相手を見つける目が自分にないと痛感した鏡子にとって、それ以外の「好き」があってもよいという事実への気付きが、次に進む力となった。

友達の「好き」と恋愛の「好き」との狭間に悩んでいた城田にとって、それが混ざり合って新たな形をとってもよいという気付きは、鏡子を救う形の想いに姿を変え、二人を絡める。

 

人の感情が割り切れないことなど、僕のような若輩が言うまでもないことだ。

なのに喜怒哀楽のすべてを総動員する恋愛については、当初抱いた画一的な感情に、強く引っ張られがちである。

複数の形の「好き」を混ぜることの素晴らしさを、是非味わっていただきたい。

 

 

すきなひと 1 (楽園コミックス)

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